Project  | 北海道レドックスフロー電池設置工事 Project Story

世界最大規模の「大型蓄電システム緊急実証事業」を全国から集まったメンバーで完遂。

Prologueプロローグ

北海道は新千歳空港より南東に車で30分。冬場は厳しい寒さに包まれる勇払郡安平町に、ひとつの変電所がある。

2015年、この南早来変電所を舞台に、世界最大規模の蓄電池が設置された。数ある蓄電池のなかから採用されたのは、住友電工がアドバンテージを持つレドックスフロー電池。住友電設は、その設置工事を全面的に担うこととなった。

実働工期は実質7カ月、据え付ける機械の物量は約2,700トン。1カ月あたりの物量としては、一般的な案件の約5倍となった。世界最大規模のプロジェクトだが、工期に余裕があるわけではない。この難題に、それまで面識のなかったメンバーたちが全国各地から集まり、一丸となって取り組んでいった。

Memberメンバー

プロジェクト統括チームリーダー

岩本 弘行 IWAMOTO HIROYUKI

(1988年入社)

環境ソリューション事業部

重量物搬入据付工事担当

川下 泰範 KAWASHIMO YASUNORI

(1993年入社)

機械設備事業部

協力体制、寒さ、安全、短工期、
準備計画段階から、多くの課題に向き合う。

チームメンバーの協力体制を整備。

チームリーダーとなったのは、富士山静岡空港の航空灯火電気設備工事や日本最大級のメガソーラー設置工事など、数々の大規模プロジェクトを手がけてきた岩本だ。こうしたプロジェクトの要点を、彼は次のように見ている。「大規模案件では、ほんの小さなミスが大きな損失につながり、逆に小さな改善が大きなメリットにつながります。前者を防ぎ、後者の提案を促進するには、いかにチームメンバーの協力体制をつくるかが重要。メンバーは、異なる拠点・事業部から招集されていますが、だからといってセクショナリズムが生まれないような環境づくりを心がけています」。

幅広い技術力を誇る住友電設では、事業部も多岐にわたる。それぞれの事業に最適な業務フローを追求すれば、書類ひとつとってもフォーマットが異なってくる。そこで岩本は、まず個々の役割分担を明確にするため安全管理表等の書類について共通フォーマットを設定し、安全かつ高品質にプロジェクトを遂行できる環境を整備していった。また環境づくりという面では、慣れない北海道の厳しい寒さも大きな課題だったという。チームの一体感を高め、協力体制を固めるためにも、安心してコミュニケーションのとれる快適な現場事務所の確保、水・電気・インターネットなどのライフラインの整備を進めた。次に、作業を行う協力会社選定にも着手した。北海道では既知のパートナーがおらず、一から協力会社を探さなければならなかったため、現地で作業説明を行い、予算内で契約できる業者を選定。タイムリミット直前で業者を決めることができた。

「できません」はありえない。

東日本大震災以来、積極的に導入されるようになってきた太陽光発電・風力発電だが、大きな課題となっていたのが、発電出力の不安定さ。そこで電力の安定供給を図るために、大規模蓄電システムを用いた今回の実証実験が行われることとなった。世界最大規模と銘打つだけあり、重さ11トンの電池盤、高さ7.5mの電解液タンクなど、非常にスケールの大きな装置を搬入・据え付けしていかなければならない。しかも変電所は常に稼働している。たとえば、クレーンを用いた2階部分への装置搬入の際、万が一、周囲の特別高圧架空線に接触すれば広域停電を引き起こしてしまう。

求められるのは工期を守りつつ、無事故・無災害で終えること。クライアントからも「やってもらわなければならないが、本当に可能なのか」と念を押されるほどだったというが、計画を取りまとめた川下は「もちろん難しいプロジェクトでしたが、『できません』はありえない。どの案件でもそうですが、必ず解決策を見つける心づもりでいるので、不安はありませんでした」と語る。本プロジェクトの実証実験の期限に間に合わせるためにも、まずは綿密な施工計画の立案に取り組んでいった。

レドックスフロー電池の構成図
本プロジェクトの流れ
  1. Step01 機械据付
  2. Step02 配管・電気計装工事
  3. Step03 保温・塗装
  4. Step04 試運転

「無事故・無災害で、工期通りに」。
その工事の裏で光るのは、細心の配慮。

Step01 / 機械据付 細心かつ万全の計画立案。

川下によれば、今回の計画は「非常に複雑なパズルゲーム」のようだったという。現場は13のエリアに分かれていたが、工期に間に合わせるためには、工事が完了したエリアから順次試運転していかなければならない。そこで川下は、着工の3カ月前という異例の速さで施工計画を固め、協力会社と共有していった。「今回は協業したことのない北海道の協力会社が大半だったので、準備・検討期間に少しでも余裕のあるうちに打診したかったんです」。これによって、協力を得やすくなり、スムーズな進行を加速させることとなった。

実際に着工してからも重量物搬入据付工事はスムーズに進んでいく。途中、輸送フェリーが火災に見舞われ、タンクが予定通り届かないというトラブルもあった。しかし台風などの気象条件による遅延を見込み、常にストックが用意された工程計画を組んでいたため、事なきを得る。細心かつ万全の計画によって、プロジェクトは順調に進んでいった。

南早来変電所エリア図

Step02 / 電気計装工事 約1440本のケーブルを間違いなく。

プロジェクトを円滑に進める施工上の工夫は、電気計装工事でも取り入れられた。電池盤などの搬入に先立ち、あらかじめケーブルを敷設しておくことで、スムーズに作業を進行。用いたケーブルは全部で約1,440本、総長は約11万1,000m。それぞれのケーブルの両端に識別シールを貼ったうえで、間違いなく機器に接続されているかを入念にチェックしていった。また、エリアごとに試運転で受電しているケーブルがあったことも、慎重さが求められるポイントだった。そのケーブルが通電しているかどうかは、匂いや目視ではわからない。そのため、受電エリアで盤を開ける等の作業でも試運転班へ確認を取り、感電災害をさせないよう打ち合わせを入念に行うなど、安全性を確保し、慎重に作業を進めていった。

Step02 / 配管工事 硫酸バナジウムも漏らさぬ配管を。

レドックスフロー電池の電解液である硫酸バナジウムは、水よりも粒子が細かい。ゴムパッキンに髪の毛一本挟まった程度の隙間でも、硫酸バナジウムでは漏液につながる。今回の配管工事で最大の課題となったのは、漏液しない加工管の製作だった。レドックスフロー電池は、タンク内の硫酸バナジウムをポンプで電池盤へとくみ上げて電気を発生させる仕組みとなっているが、タンクと電池盤をつなぐ配管から硫酸バナジウムが漏れてしまえば当然感電する。そのため、硫酸バナジウムも漏らさない厳格な品質検査基準および検査項目を設けることとなった。たとえば、配管の加工切断面が垂直になっているかどうか。その誤差の許容範囲を1~1.5mmとし、配管接続時にわずかな隙間もできないように配慮したり、徹底した気密試験を行ったりするなど、配管工事における施工管理を行った。

また製造については、月に二度は石狩の配管工場に出向いて工程・品質のチェックを行っていった。同時にトレーサビリティ管理を行い、「いつ」「誰が」製作したものかわかるようにすることで、万一不良品が発生した際にも原因究明および同様の不良品を発見できるよう工夫した。細心の注意を払って加工管の製作にあたった。

AFTER STORY

2021年、再び北海道へ。

2015年の本プロジェクトでの実績を高く評価された住友電設は、2021年に再び北海道へ。北海道電力ネットワーク株式会社から住友電気工業に発注のあった屋外コンテナ型レドックスフロー電池について、搬入据付・試験調整工事を行うこととなった。

電池盤コンテナ72台、PCSコンテナ18台、タンクコンテナ144台という非常に多くの重量コンテナを設置。屋外コンテナ型のため、ときには厳しい雨に、冬には氷点下で雪に見舞われながらの作業となったが、無事にコンテナ型レドックス工事を完成させることができた。

北海道

それぞれの技術を備えたメンバーの力を集約。
ボーダーを越えた力が、住友電設の強み。

メンバーの意識を統一した
リーダーの手腕。

ピーク時には1日に200人の作業員が出入りする大規模工事。しかも実働工期7カ月という短工期でありながら無事故・無災害で終えることができたことは、プロジェクトメンバーに非常に大きな達成感をもたらした。「どれだけ綿密な工程計画を立てても、それを遂行できる人材がいなければ意味がありません。岩本リーダーが事業部間の連携を取りやすい状況を整備したことが、この成果を生んだんです」と川下は語る。執務スペースを広くとって一堂に会することができるようにし、作業上の連携はもちろん、食事会をしたり、各スタッフの作業最終日には「卒業式」まで行い、メンバー間の意識を統一。ほとんどのメンバーが初対面だったこのチームを率いて本プロジェクトを成功に収めた岩本の功績は、間違いなく大きい。

「住友電設さんでなければ、
できなかった」

また、若手にも実りの多い現場となった。ある者は過去にない規模の配管工事に携わったが、そこで構築した独自の製作手法・管理方法は高く評価され、同じレドックスフロー電池を用いた新しい現場でも同様の手法が取り入れられている。その他、入社2~3年目で抜擢され、めざましい成長を遂げる若手もいたという。最終日の『卒業式』で感極まって涙ぐむその姿に、リーダーの岩本は目を細めた。「今回のプロジェクトに参加したメンバーが、いつかプロジェクトリーダーとなって、さらに成長していってくれることを願っています」。

プロジェクト終了後、競合だった電気工事会社から「今思えば、これは住友電設さんでなければできない案件でしたね」との言葉をかけられたという。地域を越え、事業部を越え、幅広い技術をもって世界最大級のプロジェクトを完遂する。それは、紛れもなく住友電設ならではの強みと言えるだろう。

工事概要
工事 北海道 南早来変電所 系統用蓄電池設備新設工事
北海道勇払郡安平町遠浅680番地の7
北海道電力株式会社
施工体
住友電設株式会社 電池設置工事
スミセツテクノ株式会社 電池盤・熱交換器盤製造
住友電気工業株式会社 電池セル製造、液入れ、試験、調整
岩田地崎建設株式会社 建屋建設工事、
建築付帯設備工事
北海電気工事株式会社 特高受変電工事
契約工 全体契約工期
2014年5月28日~2016年 1月15日(20カ月)
当社契約工期
2015年4月1日  ~2015年12月25日(9カ月)
延べ床面積 9,964.93㎡
建屋 鉄骨2階、 階高 10m
工事内 電気計装工事・重量物搬入据付工事・電解液配管工事・配管保温工事
(電池盤 130面、電解液タンク 130本、PCS盤 13セット)
現場代理人 プロジェクト統括 岩本弘行(環境SL)
現場担 川下泰範(機械設備事業部)、笠井 健、吉川友章(環境SL)、中澤亜樹雄(北海道支店)、杉山元重、奥村丈申、宇賀神和美(機械設備事業部)、東濱 浩(スミセツテクノ)
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